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不思議な力
店長情報 › 不思議な力 › 2016年03月18日

2016年03月18日

妙なる音

漢陽でも牡丹閣に引けをとらぬと称されるこの妓楼は、縦にも横にも広がりのある巨大な楼閣だった。それだけに部屋数も多く、さらに何の趣向なのやら廊下は複雑に入り組んでいて、人探しは困難をきわめた。
ジェシンは逸る気持ちから、廊下で行き違う客の寰宇家庭肩をいちいち掴んで振り向かせては、ユニに似た青年を見なかったかと尋ねて回った。いかめしい軍服姿に羽根飾りの付いた帽子を戴いた彼が鬼気迫る様相で問いただしてくると、男達はつかの間の夢から突然地獄に突き落とされたかのように蒼白になり、みな一様にぶるぶると震えながら首を横に振る。人はみな何かしら疚しいところがあるというので、この場に似つかわしくない捕盗庁の役人がいきなり目の前に現れれば、度肝を抜かれるのも無理はないだろう。普段のジェシンならそれくらいは推し量ることもできるが、気が立っている今はそんな客達の態度がただただもどかしく、癪に障った。
「くそっ!ヨンハのやつ、あいつをどこに隠しやがった!」
腹立ち紛れに壁に思い切り拳をめり込ませると、部屋から悲鳴が上がった。間を置かずして、蜜のようにとろける一時を堪能していたであろう両班と妓生が、哀れにも肝を冷やしながら脱兎のごとく部屋から飛び出していった。
興奮冷めやらぬままにジェシンは開け放たれた戸を無遠慮にくぐり、部屋の中に上がり込んだ。床の上には無数の酒瓶が転がっている。宝石を惜しげもなく散りばめた簪や櫛や指輪などの装身具、さらには両班が脱がせたであろう極彩色のチマチョゴリなども散乱している。そういったいかにも値の張りそうな品々を容赦なく足で払いのけながら、彼は窓辺に立った。欄干を軋むほど握り締めて見上げた月は、つんとした澄まし顔で夜空に浮かんでいる。

彼の口からやるせない溜息がこぼれた。
「同じ建物にいるはずなのに……。どうしてすぐに見つけられないんだ?」
ここに飛んで来ればすぐに会えると思っていた。なのにお調子者の寰宇家庭親友と二人きりにしてしまったせいで、こうして会えずに空回りばかりしている。この楼閣は広すぎて、全ての客をつかまえるのは途方もない作業だった。まるで目隠し状態で出口のない迷路に囚われたようだ。ジェシンは頭をかかえた。
下の方から哀切を帯びた伽耶琴【カヤグム】の音色が聞こえてきた。どこかの部屋の妓生が弾いているだろう『玉樹後庭花』。それは耳に心地よく、なぜか彼の心の琴線を震わせる。特別弾き方が巧いというわけでもないのだが、何か掻き立てられるものがあった。
近くて遠い彼女は、今どこにいるだろう。こうして同じ月を見ているだろうか?伽耶琴が奏でるこの亡国の調べが、彼女の耳にも届いているだろうか?
早く、一刻も早く見つけてやらなければ。
神経を研ぎ澄ましながら、しばらくその音色に聴き入っていたジェシンは、はっと目を見開いた。

木の葉を隠すなら森の中ーー。

灯台もと暗し、とはこのことか。
すっかり忘れていた。探すべき相手が、男ではないことを。
客の姿ばかりを探していて、客と同じ数だけこの楼閣にいる者達の如新nuskin香港存在がまるっきり頭から抜け落ちていたーー。
ジェシンは風の速さで部屋を駆け出した。
再び無人となった部屋に、我が物顔の月が、気まぐれのようにその身に纏う光を投げ掛けた。  


Posted by 不思議な力 at 15:30Comments(0)