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不思議な力
店長情報 › 不思議な力 › 奇貨居くべし

2016年03月14日

奇貨居くべし

叔父が大枚をはたいて買ったのは、「奇洋」という名の奇貨であった。
あの娘は必ずや我が一族に好機をもたらしてくれる、と近頃口癖のように繰り返す叔父。すっかりキ・ヤンという娘の素養に惚れ込み、傾倒しているようだ。政略戦争の銅鑼灣 髮型屋手駒にするためとはいえ、己の養女として屋敷に迎え入れたヤンにわずかながら情も移りつつあるとみえ、日に何度も修練の様子をたずねたり、講釈を行う私にわざわざ差し入れなどを持たせようとする、といった寵愛ぶりだ。剛毅で勇猛な将軍として大元帝国に名を馳せる叔父は、実は人一倍情に厚い男であることを、甥であり側近である私は誰よりも良く知り得ている。それは私が尊敬してやまぬ叔父の美点であり、また同時に、懸念する欠点でもあった。

叔父は今宵も夕餉後の酒席にあの娘を呼んだ。挨拶を済ませ、椅子に腰かけるキ・ヤンのその一連の所作を、叔父は小さく頷きながら上機嫌に眺めている。まるで完成された芸術品を愉しむかのような、満ち足りた眼差しだ。
「今、ちょうどタルタルとそなたの話をしていたところだ」
「どのようなお話をなさっていたのです?」
ヤンが叔父に酌をしつつ、微笑んだ。
「そなたは『奇貨』で、この私は『呂不韋』なのだという話をな。ヤン、そなたもそうは思わぬか?」
「私が奇貨で、将軍が呂不韋、ですか」
叔父の言葉を繰り返し、ヤンは目を細める。
かつて秦の商人・呂不韋が、趙の人質となっていた秦国王子・子楚を手助けし、恩を売ったという逸話がある。呂不韋は金の力に物言わせ、みすぼらしいなりをしていた子楚を玉座に据えてやり、その見返りとして秦国丞相の地位にまで上り詰めたのだ。この子楚の雪纖瘦子であり後を継いで秦王となるのが、かの有名な始皇帝・嬴政であり、呂不韋の権勢は政の時代にまで続いた。

「呂不韋は奇貨、すなわち人質であった秦国王子に投資することで、後に権力をほしいままにした。ペガン将軍は養女である私を掖庭宮に送り、皇帝の側室という後ろ盾を得ようとしている。──将軍と私には、確かにあの二人と相通ずるものがあるのかもしれません」
叔父は大口を開けて豪快に笑った。史書にも通じている聡明なこの娘がますます気に入ったと見える。
「だが、ヤンよ、どうやら我が甥はその考えが気に入らんようだ」
「タルタル殿が?」
二人が同時に私を見る。黙って話を聞いていたが、思わぬ飛矢であった。

「叔父上、私は何も申しておりません」
「気に入らん、とそなたの顔に書いてある」
叔父が不敵な笑みを見せる。嫌な予感がする。こういう時の叔父は、私をからかいたくて仕方がないのだと知っている。
「ヤン、そなたの師匠にも一献注いでやってはどうだ?愛弟子のそなたが私にばかり構うので、あの朴念仁がああして膨れているのであろう」
「タルタル殿はそのようなお方ではありません。きっと私がお二人の邪魔をしてしまったので、少々お気に召さないだけでしょう。──私の目には、普段とお変わりないように見えますが」
「いや。あのように涼しい顔をしているが、内には激しいものを秘めているのだ。叔父の私には分かる。きっと今も、そなたを独占されて苛立っているに違いない」
叔父とヤンは、揃いも揃って「絹の道」を渡ってきた珍品でも眺めるかのごとく、熱心に私の顔を観察する。呂不韋と奇貨の話題から、何故私の話にすり替わっているのか。どうも解せぬ。


Posted by 不思議な力 at 13:07│Comments(0)
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